再開発で消える下町情緒?大山ハッピーロードの激変と今食べるべき名店
大山 ハッピー ロードのアーケードに足を踏み入れた瞬間、削岩機がコンクリートを砕く硬質な響きと、焼き鳥の甘辛いタレの煙が混じり合い、強烈なコントラストとなって五感を揺さぶる。昭和の活気を色濃く残してきた巨大な屋根付き商店街が、これほど激しい変革の嵐にさらされた時代があっただろうか。板橋区随一の活気ある庶民の拠り所は今、過去と未来がせめぎ合う巨大な実験場と化している。
仮設の白い工事用フェンスが続く通りを歩行者の列が縫うように抜けていく光景のなか、日常の雑踏に溶け込む大山 ハッピー ロードの文字を見上げれば、長年親しまれてきた生活の匂いと、無機質な鉄骨の威圧感が奇妙な均衡を保っていることに気づく。古くからの常連客が顔なじみの店主と談笑するそのすぐ背後で、街の輪郭そのものが不可逆のスピードで書き換えられている。
再開発で街はどう変わる?クロスポイント地区の進捗と変貌する商店街
歩行者の頭上を覆っていたアーケードの一部が取り払われ、ぽっかりと空いた空から容赦なく陽光が差し込む。その頭上に聳え立つのが、街の様相を一変させたツインタワーマンションだ。現在進行形で進む「大山町クロスポイント周辺地区第一種市街地再開発事業」は、単なるビルの建設ではない。地上数十階規模のタワーが商店街をまたぐように姿を現し、低層階には新たな商業施設が続々と誘致されている。
古くからこの地を見守ってきた板橋区の坂本健区長が掲げる防災都市づくりの旗印のもと、木造密集地域の解消と延焼遮断帯の確保という大義名分が急速に現実のものとなった。だが、行政が描くスマートで安全な都市計画の線引きは、長年培われた泥臭い下町のコミュニティを真っ二つに分断する残酷な刃にもなり得る。利便性とノスタルジー。どちらか一方を切り捨てることのできない葛藤が、現場のコンクリートに深く刻まれている。
新しく完成した商業ゾーンには、モダンなカフェや最新のドラッグストアが整然と並ぶ。だが、かつてそこに並んでいた個人商店の店主たちがそのまま戻ってこられたわけではない。賃料の高騰、営業規模の縮小、あるいは店主の高齢化。近代的な都市再開発という名のブルドーザーが均した更地の上に、かつての熱気をいかに再構築するかという難題が、いま重くのしかかっている。
寸断された屋根と分断の危機――ハッピーロード大山商店街振興組合の葛藤
全長560メートルに及んでいたアーケードは、都市計画道路「特定整備路線・補助第26号線」の整備によって物理的に切り裂かれた。雨の日でも傘をささずに端から端まで買い物ができるという、アーケード商店街最大の強みが失われた衝撃は計り知れない。ハッピーロード大山商店街振興組合の事務所では、連日連夜、加盟店同士の激しい議論が交わされてきた。
大型スーパーやECサイトが台頭するなかで、中小の小売業・アーケード商店街が生き残るための道は平坦ではない。組合はこれまでにも、全国の地方都市と提携した物産館「とれたて村」の運営や、商店街公認アイドルのプロデュースなど、先進的な取り組みを連発してきた。しかし、道路によって街が物理的に「駅前側」と「川越街道側」に分断された影響は、客足の回遊性に確実に影を落としている。
「屋根が途切れたからといって、人の心まで途切れさせるわけにはいかない」。組合幹部の言葉は力強いが、表情には隠しきれない焦燥がにじむ。分断されたエリア同士をイベントでどう結びつけるか。新住民と古くからの住民の心理的な断絶をどう埋めるか。日本の商店街の歴史において屈指の結束力を誇ってきた組織が、組織存亡をかけた正念場を迎えている。
東武東上線高架化と駅前刷新:東武鉄道が描く未来図
足元を揺らす電車の轟音も、劇的な変化の序曲にすぎない。東武鉄道が進める東武東上線(大山駅付近)の連続立体交差事業によって、街を東西に切り裂いていた開かずの踏切群が高架化される。朝夕のラッシュ時に生じていた慢性的な交通渋滞や、歩行者が足止めを食らうイライラは解消へと向かう見込みだ。
大山駅周辺の鉄道高架化は、街のアクセシビリティを劇的に向上させる。開かずの踏切を待つ間にアーケードへ立ち寄っていた人流が、高架化によって改札を出てまっすぐ周辺道路へ抜けていく可能性があるのだ。便利になることと、商店街にお金が落ちることは同義ではない。
東武鉄道が計画する駅高架下の商業スペースと、既存の商店街がどのように連携していくのか。鉄道会社が握るインフラの刷新は、池袋からわずか3駅という屈指の立地を持つ大山を「ただ通過される街」にするのか、それとも「わざわざ降り立つ目的地」にするのかの分水嶺となっている。
いま絶対に行っておくべき!愛され続けるご当地グルメ・食べ歩き名店
再開発の熱気と喧騒に呑まれそうになったら、舌の記憶を頼りに路地へ入るのがこの街の正しい歩き方だ。全国からファンが押し寄せるご当地グルメ・食べ歩きの聖地としての魅力は、いかなる巨大開発であっても容易には色褪せない。
まず外せないのが、創業数十年の歴史を誇る老舗精肉店の揚げたて惣菜だ。「アライ精肉店」の店頭から立ち上るラードの香ばしい匂いに引き寄せられ、小銭を握りしめた客が絶え間なく列を作る。名物のハムカツを頬張れば、カリッと揚がった分厚い衣からジューシーな旨味が溢れ出し、歩き疲れた体に染み渡る。
さらに、喫茶店文化の極北として君臨する「ピノキオ」の分厚いホットケーキ。じっくりと時間をかけて銅板で焼き上げられるその端正なフォルムは、昭和の純喫茶の矜持そのものだ。外側はサクッと香ばしく、中は驚くほどみっちりと詰まった生地に黒蜜のようなシロップをたっぷりとかける瞬間、再開発の喧騒など完全に忘却の彼方へと吹き飛んでしまう。
新店舗の動きも目覚ましい。タワーマンションの足元には、こだわりのクラフトビールを提供するマイクロブルワリーや、行列必至のクラフトベーカリーがオープン。下町の泥臭い名物グルメと、洗練されたモダンな食体験が隣り合わせで楽しめるカオスな食環境こそ、いま大山を訪れるべき最大の理由である。
城咲仁も熱視線!『アド街』やYouTubeが映し出す新旧カルチャーの交差点
メディアからの注目度も天井知らずだ。テレビ東京の名物番組『出没!アド街ック天国』で大山が特集されるたび、TVerの再生回数は跳ね上がり、SNSのトレンド欄を賑わせる。画面に映し出される安くて美味い総菜、温かい店主たちの笑顔は、デジタル化で冷え切った現代人の心を強烈に惹きつけてやまない。
大山を語る上で欠かせないキーパーソンといえば、タレントの城咲仁だ。実家である町中華の名店「丸鶴」は、背脂が豪快に乗りつつもしつこさのない絶品チャーハンで全国区の知名度を誇る。城咲自身も積極的に店舗を手伝い、その飾らない下町気質と街への深い愛着が、YouTubeの食べ歩き動画などを通じて若い世代へと伝播している。
いまやYouTube上には、インフルエンサーたちによる大山の食べ歩きVlogが溢れている。「千円札1枚でどこまで飲み食いできるか」という下町ならではの企画から、変わりゆくアーケードの貴重な記録映像まで、投稿されるコンテンツの幅は広い。画面越しに熱狂を目の当たりにした若者たちが週末ごとに押し寄せ、古びた大衆酒場の暖簾を恐る恐るくぐる姿は、この街のカルチャーが世代を超えてアップデートされている証拠だ。
新旧が共生する「板橋の台所」:失われるものと受け継がれる温もり
夕暮れ時、買い出し袋を両手に提げた買い物客でごった返す通りを見渡すと、人々の会話の温度だけは、半世紀前と何ひとつ変わっていないことに安堵する。「今日はいい筋子が入ってるよ」「夕飯、何にするか決まらないわ」。そんな他愛のない言葉のキャッチボールこそが、この商店街の真の骨格だ。
街は生き物だ。形を変えず、老朽化に抗えずそのまま朽ちていくことを「保存」とは呼ばない。高層タワーの足元で下町グルメを頬張り、最新の防災都市の恩恵を受けながら昔ながらの人間関係の濃さに触れる。新住民と古参の住民がひとつの赤提灯の下で肩を並べる夜、大山はただのベッドタウンではない独自のアイデンティティを獲得しつつある。
スクラップ・アンド・ビルドの波を乗り越え、変わりゆく景観の中で何を捨て、何を守り抜くのか。アーケードの切れ目から見上げる夕焼け空は、これまでよりも少しだけ広くなった。だが、夕餉の支度を急ぐ人々の足音と、どこからか漂うソースの香りは、これからも変わらずこの街の心臓を脈打たせ続けるに違いない。 (出典: 大山 ハッピー ロード(Yahoo!ニュース))